お墓をまとめて供養する「寄せ墓」という選択肢
- tabuchisekizai17
- 6月25日
- 読了時間: 5分
核家族化や都市化が進む現代、お墓のあり方もまた大きく変わりつつあります。
複数のお墓を一つにまとめて供養する「寄せ墓(よせばか)」という方法が、負担軽減と供養の両立を目指すご家族に選ばれるようになってきました。
本コラムでは、寄せ墓の基本知識から社会的背景、具体的な手順、注意点、そして伝統的な供養のあり方までを丁寧に解説します。

寄せ墓とは
寄せ墓とは、複数の墓所に分かれて埋葬されているご先祖様の遺骨を一ヶ所にまとめて供養することを指します。「お墓の引っ越し」や「合祀(ごうし)」「改葬」とも関係の深い言葉であり、家族や親族の墓地が各地に点在している場合や、代替わりを機に墓所を整理したい場合に行われます。
単に「お墓をまとめる」だけでなく、仏教的な儀式や行政手続きが伴うため、きちんとした準備と配慮が必要です。
寄せ墓が注目される背景
高齢化と移動の負担
高齢になると、遠方のお墓参りが難しくなることが多く、近くに一つまとめてお参りしやすくしたいという声が高まっています。
少子化と墓じまいの連鎖
後継者がいない、あるいは一人っ子同士の結婚などにより、管理する墓地が増えすぎることへの不安が生まれています。
生活拠点の都市集中
地元から離れて暮らす子や孫の世代が、お墓を引き継げない現実があります。
こうした時代背景のなかで、寄せ墓は「ご先祖を大切にしたい」という思いを守りつつ、現実的な課題に対応する手段として注目されています。
寄せ墓のメリット
お参りしやすく、心が届く
複数あった墓を一つにまとめることで、移動の負担が減り、お彼岸や命日などの節目にきちんとお参りができるようになります。「身近で手を合わせられる安心感ができた」という声も多く聞かれます。
管理・維持が一本化される
複数の墓地の管理費、清掃、除草などが一つに集約され、経済的にも時間的にも負担が軽減されます。
継承が明確になる
どのお墓を誰が守るのか曖昧だったケースでも、「この一つを次世代に引き継げばよい」と明確になり、安心感が生まれます。
寺院・霊園との関係が整理される
法要の手配などが一本化され、煩雑な手続きが減ることで、供養に集中しやすくなります。
寄せ墓のデメリット・注意点
改葬や新墓建立に費用がかかる
墓石の撤去費用、新しい墓の設置費用、行政手続き費用、僧侶へのお布施などを含めると、数十万〜百万円単位の出費になることもあります。
家族・親族間の調整が必要
「お墓を動かすなんて」と抵抗を感じる方もいます。寄せ墓の意義を丁寧に説明し、できれば書面に記録を残しておくことが望ましいでしょう。
行政・宗教的な手続きが煩雑
改葬許可申請や墓地の名義変更、宗派ごとの儀式確認など、複数の手続きを同時進行で行う必要があります。
寄せ墓の一般的な手順
親族間での合意形成
まず何よりも大切なのは、親族全体の理解と同意です。特に法定相続人の意見は重視されます。
現状の墓地を確認
どこに誰が埋葬されているか、埋葬証明や墓地使用許可書を整理しましょう。
新たな墓所の選定
既存の家墓に合祀するか、新たに先祖墓を建てるかなど、宗派や場所、将来の管理も考慮します。
行政手続き(改葬許可)
旧墓地のある市区町村に改葬許可申請を提出します。新墓所の受け入れ証明書が必要です。
閉眼供養(脱魂)
お骨を取り出す前に、僧侶を招いてお墓の“魂抜き”を行います。
遺骨の取り出し・移送
石材店の立ち会いのもと、安全に取り出し、丁寧に運びます。
新しい墓への納骨と開眼供養(入魂)
新たな供養の場で、ご先祖を迎える儀式を行い、正式に納骨します。
同一墓地内での寄せ墓について
同じ墓地内での墓所の移転であれば、多くの場合「改葬許可申請」は不要ですが、管理者(寺院や霊園)によって判断が異なるため、必ず事前に確認しましょう。
また、遺骨を一時的にでも墓地の外へ持ち出す場合は、たとえ同じ敷地内であっても改葬許可が必要になることがあります。名義変更や区画の再契約などが必要なこともあるため、寺院や自治体との連携が不可欠です。
五輪塔を建ててご先祖を祀るという伝統
寄せ墓を行う際、近年多くの家庭で採用されているのが「五輪塔(ごりんとう)」の建立です。
五輪塔とは、「地・水・火・風・空」の五大要素を象徴する五つの石を積み上げた供養塔で、仏教的な世界観を体現する最も古典的かつ崇高な墓石形式のひとつです。
この五輪塔に、代々のご先祖様を合祀し、最近亡くなられた家族は隣接する「家墓」や「先祖墓」に個別で納骨するという形が、伝統と実用を両立する供養スタイルとして定着しつつあります。
五輪塔の存在は、墓所全体の精神的中心にもなり、子や孫世代にとっても「ここが家のルーツ」という実感を与えてくれる象徴になります。
まとめ
寄せ墓は、単に「墓を片付ける」「減らす」ことではありません。先祖代々の想いを引き継ぎ、未来にわたって供養の場を整えるための、心ある選択肢です。
五輪塔の建立や儀式を通じて、形を変えても心は受け継がれる、それこそが、現代における供養の新たなあり方かもしれません。
供養とは、過去を敬い、今を見つめ、未来へつなぐ行為です。寄せ墓という形を通して、その想いをより深く育んでみてはいかがでしょうか。